代表の稲田礼子です。
本コラムは、私が日頃の産業医活動の中で行なっている講話から、一部をご紹介するものです。健康経営※に取り組む皆様のお役に立ちますと幸いです。
9月、10月とインフルエンザの流行状況と感染症対策についてお伝えいたしました。
今回は、免疫について取り上げてみます。
昨今、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症の流行時によく耳にするのが、「免疫」です。免疫が落ちることで風邪やインフルエンザなどにかかりやすいと聞かれたことがあるかと思いますが、そもそも免疫とは何なのでしょうか。
免疫とは体の中に入ってきた病原体やアレルゲンなど自分の体を構成する細胞や物質と異なる“異物”を見つけ出し排除する「防御システム」のことを言います。
防御システムである免疫は、自然免疫と獲得免疫の2 段構えになっています。
自然免疫は、生まれつきに備わっている免疫システムです。病原体だけが持っているパターンを認識し、病原体の侵入を素早く検知して免疫細胞が即座に攻撃をします。
獲得免疫は、後天的に獲得した病原体に特異的な免疫システムです。一度侵入した病原体の情報を記憶し、再度同じ病原体が侵入したときには初回より素早く、より強力な抗体を大量に産生し、この病原体を排除することができるようになります。“免疫がついた”と表現されるのは、この状態です。この応用がワクチン接種で、接種により自然免疫や獲得免疫を活性化させ、感染リスクを下げることが知られています。
このように免疫システムが常に異物を取り除いているおかげで、私たちは感染症にかかりにくく、かかったとしても治すことができます。
この数年のコロナウイルス感染症流行への対策でマスクの着用や物理的距離の確保などを行った結果、インフルエンザ感染が非常に低いレベルまで減少しました。しかしながら日常生活が通常に戻り始めた今年はインフルエンザA(H1N1)亜型やA(H3N2)亜型の抗体の保有割合が全年齢で低下傾向にあることからインフルエンザ感染が平年よりも早く流行がはじまりました。
一部の研究では新型コロナウイルス感染後に免疫機能不全を引き起こす可能性があることを示唆しており、そのため新型コロナウイルスパンデミック以降の世界各地で見られているレンサ球菌感染症やマイコプラズマなどの他の感染症の予想外の増加を説明している可能性があります。
免疫細胞が活性化するためには、糖や酸素、タンパク質、脂質といった基本的な栄養素の他、鉄分やビタミンなども必要ですが、何か特別に食べればよいということはなくバランスの良い食事をとることが大切です。また適度な運動が感染症予防にも有効であると考えられています。
注意が必要なのは、加齢により免疫細胞の働きは鈍化してしまうため、高齢になるにつれて病気にかかりやすくなることです。自身が感染や発症していなくてもウイルスを持ち込んでしまうこともあるため、身近な高齢者への配慮を忘れず感染症対策を意識していただきますようお願いいたします。
参考
・How worried should we be about the pneumonia outbreak in China?
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。