本コラムは、日頃の産業医活動の中で行なっている講話から、一部をご紹介するものです。健康経営※に取り組む皆様のお役に立ちますと幸いです。
今回は「健康診断の目的と義務」と題して、制度や事業者・従業員それぞれの対応についてご紹介します。
健康診断の制度
定期健康診断は、事業所には実施の義務が、労働者には受診の義務が規定されています。(労働安全衛生法第66条)
事業者には労働者が安全に働くための健康管理・衛生環境管理などの安全配慮義務があり、①危険発見、②その事前排除(予防)の義務を負っています。①の危険発見の1つとして健康診断を実施し、所見のある従業員には医療機関への受診勧奨や医師等に意見聴取し、就業上の措置を決定するといった②にあたる事後措置を行います。
一方、従業員は業務を遂行できるよう健康管理を行う自己保健義務を負っています。健康状態が悪く医療機関の受診を指示された場合には、「今の業務を安全に遂行できる健康状態である」と示すためにも、受診と受診結果の報告が望まれます。
健康診断の「診断」と「判定」
定期健康診断で何かしら所見が見られた場合には、個人結果票に医師の名前が2人分並びます。
1つは健康診断を実施した医師による診断、もう1つは産業医等による就業判定です。
厚生労働省「労働安全衛生法に基づく 健康診断実施後の措置について」リーフレットより引用
医師による診断は、体の状態を表しているのに対し、就業判定では「安全に働くことができる状態であるか」を判断していることが特徴です。
例えば血圧や血糖値のコントロールが悪い場合、症状の悪化が予測されるとして時間外労働の制限などの就業上の措置が必要になる場合があります。
有所見者については3か月以内に医師の意見聴取を行うことが義務付けられていますので、健康診断の受診だけでは法定義務を満たせません。
受診結果が事業所に届いたら、対象者を確認し、産業医や地域産業保健センターの医師などに就業判定を依頼しましょう。
健康診断の義務
定期健康診断は実施、有所見の医師の意見聴取、医師の意見に基づく事後措置を行う必要があり、産業医や保健師による保健指導を行うことも努力義務として定められています。
社員に長く健康に働いてもらうためにも、不調を呈した際や労災事案の際の事業所側のリスク対策としても、適切な健康診断の実施が重要です。
対応にお困りのことがあれば、産業医やお近くの地域産業保健センターなどへご相談ください。
参考:
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。